夏バテを漢方で改善&お勧め食材
猛暑が続く日本。
焼き付けるような日差しと毎日のように続く高温で夏バテや、食欲不振、下痢のご相談も増えてきています。
連日の猛暑は体調不良を起こすばかりでなく熱中症などの生命の危機に至る事もあるため、『暑さは我慢すれば良い』と考えずにクーラーの利用や休養、食養生、漢方薬の服用をお勧めします。
中医学の世界では夏の暑さによる体調不良を『暑邪による影響』と考え、様々な研究がなされてきました。
暑邪とは『暑さを伴う邪気』で、暑さによる体調不良は暑邪に襲われているから、と考えられてきました。
暑邪の特徴
暑邪には以下のような特徴があります。
1.炎熱の性質を持つ
熱っぽさや口の渇き、心煩(気持ちがソワソワする)、脈が速くなるなどの症状が起こりやすくなります。
2.昇散して津液と気を損傷する
汗をかきやすくなり体液が失われる、口の渇きや尿量の減少、疲労感、体力の減少、息切れを起こしやすくなる。
3.湿邪と結びつきやすい
湿邪とは湿気の邪気です。湿邪は体を怠くしたり、消化器系の働きを悪くしたり、浮腫み、頭重、頭痛、などを起こします。いわゆる梅雨時期の症状です。日本の夏は蒸し暑いことからも暑邪と湿邪はセットで襲ってくると考えても良いでしょう。また、暑さからアイスやジュース、冷たい食事なども増えるため胃腸の機能が悪くなります。このような食生活の乱れなど生活習慣から起こる湿邪(内因)もあります。
暑邪による症状をまとめると
- 熱っぽい
- 口の渇き
- 心煩
- 不眠(睡眠が浅い)
- 脈が速くなる場合がある
- 汗をかきやすくなる
- 体液を失いやすくなる
- 体力の低下
- 疲労倦怠感
- 息切れ
- 食欲不振
- 下痢
などが挙げられます。
すべてに当てはまらなくても、3つ以上当てはまれば暑邪による体調不良があると考えてください。
夏場に影響を受けやすい臓腑
中医学の世界では夏に影響を受けやすい臓腑として『心』と『脾胃』を挙げます。
日頃から『心』と『脾胃』の働きが弱い人は十分に気をつけましょう。
心
心には『主神志』と『主血脈』という非常に重要な役割があります。
『主神志』とは精神・意識・思惟活動を正常に行う働きです。意識がもうろうとする、ろれつが回りにくい、言葉が出にくい、冷静になれない、思考力が低下している場合は心の機能が低下している可能性を考えます。
『主血脈』とは全身に血液や栄養を正常に運搬する働きです。動悸やめまい、心煩、不眠などの症状がみられる場合は心の機能が低下している可能性を考えます。
脾胃
脾胃は現代医学における胃腸に近い役割があります。
ついつい冷飲冷食になりがちな夏は胃腸の機能が低下しやすくなります。そのため、食欲不振、下痢、痩せてしまうなどの症状が起こりやすく、また、食事から十分なエネルギーを作ることもできなくなるため、疲労倦怠感を起こしやすくなります。
夏バテの原因と食養生
夏バテの原因は『暑邪侵入』と『脾胃虚弱』が主になります。
原因が違えば症状も対象方法も変わります。
暑邪侵入
暑邪は『暑さの邪気』です。
暑邪侵入とは暑邪が体内に入ってきたことで体調不良が起きている状態なので、いわゆる『暑さが原因で起こる体調不良』と考えましょう。
『暑さ』が原因で起こる症状であるため、食事は体の中の熱を排出するものがお勧めです。
薬膳的に暑邪の時期にお勧めの食材としては以下のものが挙げられます。
- スイカ
- 枝豆
- キュウリ
- トマト
- ナス
- ゴーヤー
- 緑茶
- レンコン
- レモン
- イチゴ
- とうがん
- ハスの葉
これらの食材は暑邪を体から追い払ってくれるため、積極的に食べると良いでしょう。
逆に体に熱をこもらせてしまうものは
- 高糖質&高脂質なもの
- 強い香辛料を使った料理
などが挙げられます。
辛いものは血の流れが良くなる&気が発散されるというメリットがあります。そのため、『夏場に辛い物を食べてスッキリしたい!』という方もいますが、辛味によるこのような効果は一時的で、かえって体内に熱がこもりやすくなり暑邪を盛んにしてしまうので、あまりお勧めできません。
特に暑邪の症状が出ている場合は控えるのが無難です。
脾胃虚弱
脾胃虚弱は胃腸の弱りからくる体調不良です。
脾胃が弱ると気虚と呼ばれるエネルギー不足状態や、内湿と呼ばれる体内に不要な水が溜まる状態を招きます。
気虚になると疲労、息切れ、思考力の低下、立ち眩み、めまい、などを起こしやすくなり、内湿が溜まると倦怠感、頭重感、頭痛、食欲不振、下痢、浮腫みなどを起こしやすくなります。
このように脾胃の弱りが原因で夏バテが起きている場合、胃腸の働きを良くする食材がお勧めです。
薬膳的に脾胃の働きを良くする食材としては以下のものが挙げられます。
- 山芋
- 卵
- 米
- ハト麦
- 生姜
- 羊肉
- ネギ
- にら
- 棗
- はちみつ
- 豆類
- 大根
これらの食材は脾胃の働きを良くするので、夏バテでお腹の調子が悪い時は積極的に食べると良いでしょう。
逆に食べないほうが良いものは
- 冷たいもの&生もの&脂っこいもの
- 唐辛子やラー油など刺激の強いもの
- チョコレートなど高糖質&高脂質なもの
などが挙げられます。
脾胃は冷やされることを嫌がるので、脾胃が弱っているときは冷たい食事は避けましょう。
また火の通っていない食材は消化が良くありません。
甘いものは脾胃の働きを良くすることもありますが、チョコレートのように脂質を多く含むものは例外です。
あるチョコレートでは50gあたり18g近くの脂質を含んでいます。油を18g摂取するのは大変ですが、チョコレートという加工された商品だと意外と簡単に摂取できてしまいます。弱っている脾胃に過剰な脂質は良くありません。
夏バテにお勧めの漢方薬
暑湿邪侵入にお勧めの漢方薬
勝湿顆粒
この漢方薬は文字通り『湿邪に勝つ』を目的としています。体の中の湿を除去しながら高温高湿による外的要因の対策にも利用しやすいです。暑気払いの処方としても有名で、夏場の胃腸トラブルによく用いられます。
半夏瀉心湯
清熱薬が入っていることで湿邪と暑邪の両方に利用できます。止痢作用も高いため、暑邪の症状がありながらも下痢が強い方にお勧めです。
胃苓湯
この処方は平胃散と五苓散が合わさった処方です。平胃散で湿邪による脾胃の弱りを改善し、五苓散による利水作用で体の過剰な水分を排出します。ビールやジュースの飲みすぎから胃が冷えて下痢になる場合などにお勧めです。
脾胃虚弱にお勧めの漢方薬
星火健胃顆粒
六君子湯に木香と縮砂を加えた処方です。脾胃気虚を改善する代表処方である六君子湯に止痛作用のある木香と縮砂を配合することで脾胃気虚の寒湿阻滞(冷たいものが留まる状況)を改善します。理気作用もあるため、ストレスを感じやすく、お腹が冷えてしまって食欲がない場合にお勧めです。
麦味参顆粒
人参・麦門冬・五味子のたった3つの生薬からなる漢方薬です。人参は気を補う代表的な生薬、麦門冬は体の潤いを補う生薬、五味子は酸味のある生薬で体を引き締め汗のかきすぎを防ぎます。心と肺を強化する処方ではありますが、気虚による疲労感に即効性があり長く服用もできるため、夏に不安を感じる人にはお勧めです。
特に屋外で仕事やスポーツをされる方、ご高齢で心肺機能に不安がある方に良いでしょう。