心のトラブルと漢方
いまや国民病と言っても良いほど深刻な鬱病。
古来中国においても『凡そ病は、鬱によりておこること多し』と言われ、精神的な問題が原因で発症する病気は多いです。
そもそも『鬱』は『流れが悪く滞っている状態』という意味で、何らかの原因で『気血が流れていない状態』ということになります。
リモートワークが多くなり、運動不足の人も増えたことで気血の流れが悪くなり、鬱を発症するリスクが高まっているとも言えます。
心のトラブルの原因
肝気鬱結
肝気鬱結とは肝の働きの乱れから気の巡りが停滞し鬱になる状態です。
肝には疏泄作用と呼ばれる自律神経を整える働きに近い役割があります。
肝はストレスや憂鬱、怒りの感情により乱れやすく、肝の疏泄作用が乱れることで鬱が起きます。
肝気は陽の特徴があり、長らく停滞していると熱を帯び、肝火という状態になります。
熱を帯びた肝火は心火までも発症させます。そのため、肝気鬱結の鬱症状はどちらかというと怒りや鬱が混同する情緒不安定型となります。
肝気鬱結に特徴的な症状
- 怒りっぽさと倦怠感がある
- 興奮状態になると人の話を聞けない
- ため息をつく
- お腹が張る
- 頭痛がある
- 目の奥が痛くなる
- 生理前に胸が張る
心脾両虚
心脾両虚は脾の弱りから気の生成が不足し、心気も不足することで精神活動が停滞した状態です。
肝気鬱結が実証の鬱と言われるのに対し、心脾両虚は虚証の鬱と言われます。
そのため、時折攻撃性や行動的になる肝気鬱結に対し、心脾両虚は疲労感が強く、動けないこともあります。
1日中ベッドで寝ていて起きられない、人と会話できないなど、意欲・やる気の低下が目立ちます。
心脾両虚に特徴的な症状
- 不眠
- 不安
- 眩暈
- 物忘れ
- 倦怠感
- 食欲不振
- 顔色が白い
- すぐに横になりたがる
- 立ち眩み
漢方薬とお勧めの食材
肝気鬱結
肝気鬱結は肝の働きを良くし気の巡りを改善する漢方薬を選びます。
代表的なものに加味逍遙散、逍遥散が挙げられます。
加味逍遙散は逍遥散に牡丹皮、山梔子が加わったもので、逍遥散よりも清熱作用が強いです。
そのため、鬱から怒りの感情が強く出たり攻撃性が出る場合は加味逍遙散が良いでしょう。
逆に冷え性があったり、そこまで攻撃性が強くないのであれば逍遥散の方が長期の服用には適しています。
肝気鬱結にお勧めの食材
- キャベツ
- ニラ
- ネギ
- レモン
- ミカン
- 梅
- 酢
- 玉葱
- ナス
- 鯵
- 鰯
- 秋刀魚
- ひじき
- サクランボ
- 桃
- 紅花
- 陳皮
- 菊花
心脾両虚
心脾両虚は脾の働きを良くして気血の生成を高め、心の気血を安定させる漢方薬がお勧めです。
代表的なものに帰脾湯、酸棗仁湯、甘麦大棗湯などが挙げられます。
特に帰脾湯は心脾両虚を改善する代表的な漢方薬です。補血作用もあるため、生理がある女性にお勧めです。酸棗仁湯は不眠の漢方薬というイメージが強いですが、帰脾湯に補助的に併せると良いと思います。特に不眠傾向が強い鬱には併せてみましょう。甘麦大棗湯は即効性があり、急に涙が出る、ヒステリーになる、心の衰弱を感じる時にお勧めです。
心脾両虚にお勧めの食材
- ニンジン
- ジャガイモ
- サツマイモ
- サトイモ
- 山芋
- 舞茸
- 椎茸
- 肉類全般
- 鰻
- 鱈
- 鮭
- 秋刀魚
- 鯖
- 鰹
- 鰯
- タコ
- イカ
- 米
- 卵
- 小麦
- 生姜
- 赤身の魚全般
- アサリ
- シジミ
- 牡蠣
- ひじき
- ほうれん草
- 小松菜
- 玉葱
- イチゴ
- ブドウ・棗
- 桃
- ライチ
一口に鬱と言っても、『気が巡らない鬱』『気が足らない鬱』の2種類があることが分かります。鬱の原因を見誤ると改善が難しく、長引いてしまう事もありますので、服用の際は必ずご相談ください。