睡眠の質が悪い原因と漢方による改善
「起床時に爽やかに覚醒し、気分は晴れやかで疲労も感じない」
そんな睡眠をしたのはいつのころか…?
店頭で漢方相談を受けていると「不眠」とまではいかないまでも、睡眠の質が良いとも言い切れない人が多い事に気が付きます。
快眠をした日が遠い昔で、すでに快眠など不可能と諦めている人さえいます。
しかし、質の悪い睡眠には必ず原因があります。
西洋医学的には睡眠の質が悪くなる原因の一つに「交感神経過多」があります。
交感神経過多とはいわゆる「心身の緊張状態」を指します。
交感神経が優位になると代謝が上がってしまい、体の中心温度が下がりにくくなります。
人は入眠するとき中心温度が下がる必要があるので、この時点で寝つきが悪くなり睡眠が浅くなります。
また、ストレスを感じているとコルチゾールやアドレナリン、ノルアドレナリンといったホルモンが分泌されやすくなり、心拍数が上がってしまいます。
就寝前に運動したり、喧嘩をしたり、仕事によるストレス過多があると、ベッドに入っても攻撃モードが収まらないのです。
一説には悪夢を見る人はノルアドレナリンが高い傾向にあると言われています。
ノルアドレナリンが高まるとレム睡眠が阻害され、就寝中のストレスホルモンの減少を妨げるため、
「ストレス→質の悪い睡眠→ストレスが抜けない→質の悪い睡眠→ストレス…」と負のループになってしまいます。
日頃からストレスが多い人ほど、質の良い睡眠を心がける必要があると言えるでしょう。
睡眠の質を良くするための漢方養生と漢方薬
睡眠の質を上げるためにはストレスを緩和させ、就寝時に体の中心温度を下げることが重要です。
漢方においても不眠の原因として『情緒失調・肝鬱』や「痰熱内擾・胃気不和」というものがあり、西洋医学的にも漢方的にも共通した考えがあります。
情緒失調・肝鬱
漢方の世界には「怒れば気が上がる」という考えがあります。
これは漫画「ドラえもん」に登場するジャイアンが分かりやすいです。
ジャイアンが怒ると目が吊り上がり、顔が真っ赤になって、声が大きくなります。
これは怒ったことで気が上がるためです。
日中や夜間に「怒り」の感情がでると、気が上がる、つまり「脳が興奮状態」になってしまい、入眠困難や睡眠の質の低下を招きます。
とはいえ、仕事や生活をしていれば怒りの感情を持つこともあります。
そのような場合は怒りの感情と関係が深い肝の働きを良くし、気の巡りを改善する漢方薬や脳の過剰興奮状態を鎮めるような漢方薬を服用すると良いでしょう。
肝の働きを良くし気の巡りを良くする代表的な漢方薬には加味逍遙散や逍遥散が挙げられます。脳の過剰興奮を鎮める場合は重鎮安神薬を服用すると良いでしょう。
厳密には体質に応じて漢方薬を選定する必要があるため、必ずご相談ください。
痰熱内擾・胃気不和
食事内容によっては不眠を引き起こす場合があります。
痰熱内擾とは脂っこい味のもの、しつこい味、飲酒、香辛料の取りすぎなどにより消化器系に負担がかかり代謝が低下することで体内に処理しきれない『痰熱』が生じる不眠です。
痰熱は熱であるため『上昇』の性質を持ち、心や脳を興奮させてしまいます。
日常的に飲酒をしている人に多く見られることからも、西洋医学における『飲酒がレム睡眠を阻害する最大要因』、という考えに類似しています。
胃気不和は暴飲暴食により胃の機能が低下することにより起こる不眠です。
胃は正常であれば『受納作用・粛降作用』があり、これは『食べ物を受け入れる・消化して降ろす』という働きです。胃の機能が低下すると、『胃部不快感、ムカムカ、吐き気』を催し、横になっていることさえできなくなります。
暴飲暴食をした夜に急に眼が醒めてトイレに駆け込んで吐いた、という経験はありませんか?それがまさに胃気不和です。
このように痰熱内擾・胃気不和を起こしている場合は、漢方薬を服用する以前に食事や飲酒を見直す必要があります。
夕食は腹6分程度に、揚げ物などは控え消化の良い食事にして、睡眠中の胃の負担を減らしましょう。
飲酒も量を減らしたり、飲酒機会を減らすなどの努力も必要です。
それでも、改善が難しい場合は食事によって発生する痰熱を除去する漢方薬や消化を助ける漢方薬を服用しましょう。
痰熱を改善する漢方薬は一般的に清熱化痰薬と呼ばれ、代表的なものに温胆湯があります。
消化を助ける漢方薬には保和丸がありますが、日本では晶三仙というハーブティーがメジャーです。食後や就寝前に服用すると良いでしょう。
良い睡眠のためには過度なストレスを軽減し、胃腸の負担を減らすことが大切です。
漢方薬は体質改善であり生活改善です。漢方の知識を応用し、ストレスをうまく逃がす生活、内臓に負担をかけない食事を心がけることで毎朝の爽快感が得られるでしょう。
そのサポートとして漢方薬はとても有効と考えます。
ぜひお試しください。