多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と漢方
多嚢胞性卵巣症候群とは…
多嚢胞性卵巣症候群は不妊原因のおよそ20%を占めるという報告もあり、当店でも多いご相談内容の一つとなっております。
多嚢胞性卵巣症候群(以下PCOS)とは?
PCOSは卵巣内に発育が途中で止まってしまった卵胞(一般的に10mm以下)がたくさん存在し主席卵胞が育たない状態を指します。
この状態になると排卵がしづらくなり、場合によっては無排卵にもなります。
血中男性ホルモン値が高かったり、LH値が高いこともPCOSの判断基準とされていますが、発症のメカニズムはとても複雑でいまだに解明されていません。
PCOSの状態になると卵巣の表皮が固くなる事も分かっており、「成熟しない卵胞が育つ&排卵が難しくなる」という2点から不妊症の原因となります。
PCOSになると排卵日までの日数が不安定になる事が多く、妊活のタイミングがとりにくいことも問題です。
現代医学の主な治療方法
排卵誘発剤(クロミッド HMG-HCG注射など)
クロミッドによる排卵誘発はPCOS治療においてよく利用されます。しかし、クロミッドは長期的に服用すると子宮内膜の厚みが減る事や経験粘液量の減少などの副作用も心配されるため、体調を観察しながら服用する必要があります。
またHMG-HCG注射はOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を起こすこともあるため、注意が必要です。
糖代謝改善薬
PCOSはインスリン抵抗性の合併率が高いことからメトフォルミンなどの糖代謝改善薬が使用されることがあります。
高プロラクチン血症薬
プロラクチン(以下PRL)が高いとFSH,LHともに分泌が抑制されてしまい、排卵障害の原因になります。高PRL血症薬を使用することで卵胞の発育を促し排卵しやすくなります。
外科的治療
手術により左右の卵巣にレーザーや電気メスで5~10mmほどの穴を20~30か所ほどあけて排卵しやすくする方法です。
卵巣を負おう被膜が厚くなっている状態を改善するための手術になります。
漢方における原因
漢方においてPCOSの原因は「瘀血」「痰湿」「腎虚」が大きいと考えます。
PCOSは卵巣の表面の膜に血行不良によるドロドロ血(瘀血)や不要な水分や汚れ(痰湿)が溜まっていて、これが卵巣の白膜を硬化させ排卵を阻害していると考えられています。
瘀血
瘀血は現代でいう血行不良や血液ドロドロに近いです。
そもそも血は各組織を巡りながら栄養や潤いを与える役割があると考えられているため、瘀血になると栄養や潤いが運搬されにくく、質の良い卵の成熟にも悪影響があるとされます。
瘀血の特徴的な症状
- 経血にドロッとした塊が出る
- 生理痛が重い
- 手足の冷え
- 首筋や肩の凝り
- 頭痛
- シミやそばかす
- 唇の色が暗い
- 足などに静脈が浮き出ている
特に「経血にドロッとした塊が出る」「生理痛が重い」などが当てはまれば瘀血があると判断しても良いでしょう。
痰湿
痰湿とは本来排出されるべきものが、体に溜まってしまっている状態です。
主に胃腸機能の低下や運動不足などが原因で不要な水分が溜まると痰湿になる傾向があります。痰湿が卵巣の周りについてしまうと卵巣膜が固くなり排卵が阻害されると考えます。
痰湿の特徴的な症状は
- むくみやすい
- 体がだるい
- 頭が重い
- 舌に苔が生えている
- 水太り&脂肪太り
- 食欲がない
- 吐き気
- 胸が苦しくなる
- 便が緩い
- 甘いものを好む
腎虚
腎は成長や発育、生殖機能に密接に関係しており、その活動力が低下したのが腎虚です。
腎虚はいわゆる卵巣機能そのものが低下した状態と考えることが出来ます。
腎には「人の老化は腎の老化」という言葉もあるほど、年齢とともに衰えていく臓です。
晩婚化が進む現代社会では、腎虚による不妊がさらに増えていくことが予想されます。
腎虚の特徴的な症状
- 加齢(35歳以上は腎が弱っていきます)
- 性欲減退
- 腰痛や腰のだるさ
- 筋力の低下
- 抜け毛や白髪
- 歯が弱くなる
- 不眠
漢方薬とお勧めの食材
瘀血
瘀血を改善するには活血化瘀薬と呼ばれる漢方薬が使用されます。
代表的なものに冠元顆粒や桂枝茯苓丸、血府逐瘀丸、桃核承気湯、温経湯などが挙げられます。
体質や状況に応じて服用するものを選定する必要があるので、服用の際は必ずご相談ください。
瘀血にお勧めの食材
- ニラ
- ネギ
- 玉葱
- ナス
- 鯵
- 鰯
- 秋刀魚
- ひじき
- サクランボ
- 桃
- 紅花
痰湿
痰湿を取り除くには燥湿化痰薬と呼ばれる漢方薬がお勧めです。
代表的なものに二陳湯や温胆湯などがあります。
何より痰湿を改善するには消化の良い食事と適度な運動が大切です。
脂っこい食事やお菓子、砂糖の取りすぎやアルコールは控えるようにしましょう。
痰湿にお勧めの食材
- キャベツ
- 玉葱
- 大根
- 山査子
- トマト
- リンゴ
- サクランボ
- レモン
- ニラ
- ネギ
- 玉葱
- レモン
- ミカン
- 梅
- 酢
- アスパラガス
- ブドウ
- グレープフルーツ
腎虚
腎が弱っている人は腎の働きを良くする補腎薬を服用するのがお勧めです。
補腎薬には参馬補腎丸や杞菊地黄丸、瀉火補腎丸、至宝三鞭丸、参茸補血丸、八仙丸など様々な処方があります。
腎虚には腎陰虚と腎陽虚があるため、体質に応じて漢方薬は選ばなくてはなりません。
腎陰虚は陰の不足が起きているため、火照りや手足の熱感を伴うことがあります。
腎陽虚は陽の不足が起きているため、冷え性を伴うことがあります。
有名な処方である八味地黄丸は腎陽虚に使う処方なので、選び方を間違えると体質の悪化にもつながるので要注意です。
補腎薬は必ずご相談の上、服用してください。
腎陰虚にお勧めの食材
- 牡蠣
- シジミ
- アサリ
- 海藻
- のり
- キウイフルーツ
- アワビ
- クラゲ
- イカ
- 貝柱
- ゴマ
- 黒豆
- キャベツ
- ブロッコリー
- ゴボウ
- サツマイモ
- ブドウ
- 栗
- エビ
- ひじき
- トウモロコシ
- ゴーヤー
- キュウリ
- 大根
- トマト
腎陽虚にお勧めの食材
- 羊肉
- エビ
- 鰻
- ナマコ
- クルミ
- ニラ
- アワビ
- クラゲ
- イカ
- 貝柱
- 豆
- ゴマ
- 小麦
- 山芋
- クルミ
- クコの実
PCOSは原因が分からないことが多いですが、体のバランスを整えてあげると結果的に改善していく例が多くあります。
特に見落とされがちなのが睡眠の重要性です。
22時~2時は女性ホルモンの分泌が高まるとされているので、この時間には就寝していることが理想的です。
また過度なストレスはアルコールや甘いものを欲しくなったり、自律神経の乱れを誘発することもあるので、可能な限りストレスを感じるものからは距離を置いてください。
漢方的養生を通して自分の生活を見直してみましょう。