眼精疲労について
「眼精疲労は病気」というと違和感を感じる人も多いかもしれませんね。
実際、「目が疲れれば目薬を使用すればよい。栄養剤を飲めば良い。寝れば治る」とその場しのぎの対策をしている人も多いと思います。
しかし、眼精疲労は「体調不良のサイン」としても注目されており、決して「その場しのぎ」で済むことでもありません。
自分の眼精疲労の原因を知り、それに合った処方を服用する事で「隠れた体調不良」を改善できるかもしれません。
まずは中医学的に考える眼精疲労の原因を探っていきましょう。
原因1 肝血不足(かんけつふそく)
中医学の世界において、肝と目はとても密接な関係があります。少し難しい表現ですが目は肝の経絡が外に通じる竅(出口のようなもの)と言われています。そのため肝のトラブルは目の状態に現れやすくなります。
「肝血不足」とは簡単に言えば「肝に十分な栄養(血)がない状態」と表現できます。そのため、眼精疲労のほかに目が乾く、不眠傾向、疲労感、顔色に艶がない、などの症状が出やすくなります。
そもそも肝には「血を蔵す」という役割があるので、貧血傾向の特に女性に多く見られます。
原因2 肝腎不足(かんじんふそく)
肝血不足と少し似ているところもありますが、肝腎不足はさらに厄介です。腎は精を作る役割があり、血も精に属しています。また、精から生まれる髄は脳に集まり、脳髄が充実していると視力もはっきりし、脳髄が不足すると視界がぼやけてくると考えられています。そのため腎が衰えると血が作られず、脳髄も不足するため眼精疲労に影響が出てきます。このタイプは眼精疲労以外にも、ドライアイ、ぼやけて見える、足腰のだるさ、腰痛、精力の低下などもみられます。「人の老化は腎の老化」という言葉もあるように、腎は加齢とともに衰えていくため、肝腎不足タイプの眼精疲労は圧倒的に高齢の方に多く見られます。
原因3 脾虚湿盛(ひきょしつせい)
脾虚湿盛は直接的な眼精疲労の原因というよりも、肝血不足を引き起こしやすくする症状と言えます。脾は食べた物を消化吸収して、栄養物質として体に吸収する役割があります。そのため、脾が弱っていると血を生成することができず肝血が不足する、という流れになります。
脾は気や血を作る存在であるため、脾が原因で眼精疲労が起きている人は、眼精疲労以外にも、浮腫み、体のだるさ、まぶたの浮腫み、疲労感、気力が湧かないなどの症状がみられます。冷たい物を飲食したり、よく噛まないで食べたり、水分を取りすぎるなど、食生活が乱れている人に多く見られます。
原因4 肝火旺盛(かんかおうせい)
原因1~3が栄養の不足からくる眼精疲労であったとすると、肝火旺盛はそれとは一線を隔します。
肝には「疏泄を主る」という役割があり、これは今でいう自律神経のコントロールに近い物があります。
肝の疏泄機能が乱れると肝気鬱結(精神的、肉体的な緊張)が起こり、やがて肝鬱化火(イライラ、怒り、興奮)へと変化します。そのため眼精疲労以外にも、目つきが鋭くなる、充血、目やにが多い、片頭痛、怒りっぽいなどの症状がみられます。強いストレスを感じる生活をしている人に多く見られます。
以上のように眼精疲労は「栄養不足からくるもの」「老化からくるもの」「胃腸障害からくるもの」「強いストレスからくるもの」に大きく分けられることが分かります。
原因が分かれば次はそれぞれの症状に合った漢方薬のご紹介です。
肝血不足タイプにお勧めの漢方薬
肝血を増やすことを目的とするなら四物湯を基本構成とした補血作用のある漢方薬を選ぶと良いでしょう。
補血作用のある漢方薬は種類が豊富でそれぞれに特徴が違うため、自分の体質に合った処方を選ぶ必要があります。
また、逍遥散など疏泄作用を高める漢方薬と併用することで、より肝の働きが良くなり眼精疲労に効果的です。
逍遥散には白朮や茯苓などが配合されているため胃腸の働きを改善してくれるので、補血薬の消化吸収を高める意味でもお勧めです。
肝腎不足タイプにお勧めの漢方薬
腎を補う基本的な漢方薬に六味地黄丸があります。一般的には六味地黄丸に明目作用のある枸杞子や菊花が入った杞菊地黄丸がおススメです。
このタイプも疏泄作用を高める目的で逍遥散を併用するとより効果的です。似た処方構成に加味逍遥散があります。加味逍遥散は逍遥散に牡丹皮と山梔子が加わっているため炎症や熱をとる働きがあります。もしも目の充血や興奮気味な精神状態があれば加味逍遥散にすることもあります。
脾虚湿盛タイプにお勧めの漢方薬
このタイプは胃腸が弱く、気(エネルギー)や血(栄養)を生成することができないため、肝を養えないことが原因です。そのため、このタイプは胃腸機能を高める処方がおススメということになります。
代表的な漢方薬として補中益気湯があります。この処方はとても有名な処方ですが、構成生薬の升麻は気を上に上げる働きがあるため、頭部に気血を運ぶ意味でも良いでしょう。
もしも、ストレスなどから胃腸の働きが弱いようであれば星火健胃顆粒もお勧めです。この処方は体の余分な水分を排出する効果も期待できるため、目が浮腫んでいたり腫れぼったい状態になりやすい場合に効果的です。
これらの処方は栄養バランスのとれた食事がとれることが前提です。漢方薬を服用してもいい加減な食事内容では解決は難しいです。冷たい物の飲食や水分の摂りすぎには十分に注意してください。
肝火旺盛タイプにお勧めの漢方薬
このタイプは強いストレスから肝熱が高まっている状態なので、肝の熱を清める(清熱作用)処方や、明目作用のある生薬が入ったものがおススメです。
イライラが強く目が充血し、舌に苔のようなものが目立つようであれば竜胆瀉肝湯がおススメです。この処方は、お酒を飲むと怒りっぽくなる人にも非常に効果があります。
もしも、漢方薬を服用するまでもないイライラや目の充血、眼精疲労であれば菊花と枸杞子のハーブティーもお勧めです。見た目も味も良いため女性に特に人気があります。
何よりこのタイプは揚げ物、濃い味付け、辛い物、アルコール、ストレスが一番の大敵です。
イライラから眼精疲労がある場合は絶対に避けるようにしましょう。
眼精疲労は単なる不定愁訴ではなく体からのSOSになっている場合もあります。
目薬でその場しのぎも悪くないですが、体のバランスを整えてあげるのも良いかもしれません。