浮腫みと漢方
浮腫みは軽度なものから神経痛を引き起こすような重いものもあります。
浮腫みの原因は多種多様で、季節性のものから食生活の影響、内臓の弱りなどが複雑に絡み合います。
今回は浮腫みを「胸から頭部の浮腫み」「お腹周りの浮腫み」「下半身の浮腫み」に分け、その原因と対策を考えてみたいと思います。
浮腫みの原因
胸から頭部の浮腫み
顔が浮腫みや痰が絡みやすい人は、肺気不宣という状態が考えられます。
漢方や中医学では、肺は呼吸器系のみならず、体全体に水を行きわたらせる働きがあると考えています。肺は五臓のうち最上部にあるため、肺の働きが低下すると体の上部に水がたまり、顔の浮腫みや痰が絡むなどを起こします。
肺は外気の影響を受けやすいため、冷たい風を吸い込んだり、湿度の高い環境にいると突発的に浮腫みを起こすことがあります。
そういう意味では病的な浮腫みというよりも環境などの影響が大きく、漢方薬による対処をしなくても自然と改善してしまう場合があります。
肺気不宣に特徴的な症状
- 瞼と顔面が浮腫む
- 痰が絡みやすい
- 喉の痛みを感じることもある
- 咳をする
- 冷たい風を嫌がる
- 疲労感
- 倦怠感
お腹周りの浮腫み
お腹周りが浮腫む人は、水湿困脾という状態が考えられます。生ものや生野菜の食べすぎ、雨に濡れる、湿度の高い土地に住む、冷たい飲食を好む、などにより脾(消化器系)が冷えることにより、脾が持つ水の運化機能が低下し浮腫みが起きます。
そもそも脾は過剰な水分を嫌がる臓です。そのため脾が弱い人は水分過多などの食事には十分気をつける必要があります。浮腫みを改善する漢方薬を服用しても食生活を改善しない限りなかなか改善しにくいタイプの浮腫みとも言えます。
水湿困脾に特徴的な症状
- 手足や腹部、全身が浮腫みやすい
- 倦怠感がある
- 手足に力が入らない
- 食欲不振
- 顔色が良くない
- 軟便、下痢傾向
- 摂取水分に対し尿量が少ない
下半身の浮腫み
下半身の浮腫みは腎陽不足という状態が考えられます。
腎には「水を主る」という働きがあるとされ、体に不要な水分は尿に変えて体外に排出し、必要な水分は再吸収して全身に還元します。これを腎の気化作用といいます。腎の陽が不足すると、この帰化作用がうまくいかず浮腫みが発生します。
腎の陽気が不足する腎陽虚が併発すると脾を温める力も低下し、脾の働きの低下も招きます。
さらに肺と腎は母子の関係にあり、腎が弱ることで肺も弱ることがあります。
つまり腎の弱りは脾と肺の機能低下を招くことになり、浮腫みが重症化しやすい要因となります。
腎は『人の老化は腎の老化』という言葉もあるほど、加齢と共に衰えていく臓です。
女性であれば35歳、男性であれば42歳くらいから腎を補う漢方薬を飲め始めるのも良いでしょう。
腎陽不足の特徴的な症状
- 下半身の浮腫み
- 腰の冷え
- 腰痛
- 手足が冷える
- 尿量が減る
- 生殖の力の低下
- 記憶力の低下
- 意欲の低下
- 認知機能の低下
漢方薬とお勧めの食材
胸から頭部の浮腫み
肺気不宣を改善する代表的な漢方薬に越婢加朮湯や苓甘姜味辛夏仁湯、小青竜湯などがあります。
越婢加朮湯は利尿作用と脾働きを改善することで水分代謝を改善します。
麻黄が肺の宣肺作用を高める一方で、大棗や生姜、甘草で麻黄の強すぎる性質を和らげます。
一般的には浮腫みの初期に用いられます。改善がみられたら服用は中止しましょう。
苓甘姜味辛夏仁湯は寒気がする風邪で、痰がたくさん出るような時に主に使われますが、冷えを伴う顔の浮腫みにも応用できると考えられます。小青竜湯にも似ていますが、苓甘姜味辛夏仁湯は浮腫みや咳を改善する一方で頭痛や悪寒、喉の痛みに対する効果は低いとされていて、茯苓や乾姜などの温薬・補薬がある分、虚弱体質の人にも安心して使う事ができます。こちらも予防的な服用はせず、症状が改善されたら服用を止めましょう。
肺気不宣にお勧めの食材
- ニンニク
- 唐辛子
- シナモン
- 山椒
- 生姜
- 胡椒
- ワサビ
- 紫蘇
- ネギ
- 玉葱
- ニラ
- 大根
- イチゴ
- バナナ
- スイカ
- 柿
お腹周りの浮腫み
水湿困脾を改善する代表的な漢方薬に五苓散や茵陳五苓散があります。
五苓散は利水薬と温性の桂枝を組み合わせた処方で尿量が少なく下痢などを伴う浮腫みに多く使われます。しかし、桂枝が入っているため、赤ら顔や舌が赤いなど明らかに体に熱がこもっているような状態の方には使わない方が良いでしょう。
茵陳五苓散は五苓散に茵陳蒿が入っているため、五苓散では適さない、熱症状がある方にも使えるでしょう。
水湿困脾にお勧めの食材
- キャベツ
- ネギ
- 玉葱
- 枝豆
- 大豆
- 小豆
- ナス
- ニンジン
- タケノコ
- 舞茸
- リンゴ
- サクランボ
- レモン
- ハトムギ
下半身の浮腫み
腎陽不足に使う代表的な漢方薬に真武湯や牛車腎気丸があります。
真武湯の真武とは水と火を管理する神のことで、下半身が冷えて浮腫みがある人によく使われます。脾の働きも良くするため、腎陽が不足し食欲不振などがみられる場合にも良いでしょう。
牛車腎気丸はより補腎作用に特化しているため、老化による腎の弱りが強い場合はお勧めです。
腎陽不足にお勧めの食材
- 羊肉
- エビ
- 鰻
- ナマコ
- クルミ
- ニラ
- アワビ
- クラゲ
- イカ
- 貝柱
- 豆
- ゴマ
- 小麦
- 山芋
- クルミ
- クコの実
浮腫みを改善するためには「肺」・「脾」・「腎」を中心に強化します。
肺は冷たい風に弱く、脾は冷たい飲食に弱く、腎は加齢により弱くなります。
マスクを着用して冷気を吸わないようにし、火の通った温かい食事を心がけ、補腎の食材や補腎の漢方薬を服用すれば、全身の水分代謝も良くなるでしょう。