肝炎と漢方
肝炎という病名は西洋医学用語のため、漢方や中医学にはその概念はありません。
しかし、昔の人が肝炎を起こさなかったという事ではなく、肝炎に近い概念は存在していました。
肝の働きが悪くなっている多くの人は両脇や下腹部脇に痛みを起こすことがありますが、これは中国古典の中の『肝病者』について書かれている『脇痛』に近いものがあります。
また、肝疾患を起こしている人は精神的にも怒りっぽく、イライラしやすい傾向があり、これも漢方や中医学における『鬱』に近い考えです。
肝炎については病院での治療が第1選択となりますが、漢方や中医学における対処もQOLの向上に意義があります。
今回は肝炎と漢方について書いていきます。
肝炎による不調の原因
肝気鬱結
肝気鬱結とは、ストレス過多などにより肝の働きが乱れ、気の巡りが悪くなった状態です。肝炎の初期に見られる事が多いです。
デスクワーカーなど同じ姿勢をとり続ける人に多く発症しますが、適度に気分を発散すると改善してしまうため、さほど重要視されません。
肝気鬱結の特徴的な症状
- 遊走痛と呼ばれる一過性の痛みが起きる
- イライラ、怒りっぽい
- げっぷ
- お腹の膨満感
- 下痢
瘀血
肝気鬱結により気の巡りが悪い状態が続くと、気の巡りに比例して血の流れも悪くなります。
瘀血とは血行不良の状態を指します。
血管の細い部分にある血は滞りやすく、血瘀となりこれがまた気血の流れを悪くするという悪循環になります。肝気鬱結と違うのは、痛みが固定的でチクチクと刺すような痛みがあることです。
瘀血に特徴的な症状
- 痛みの場所が固定されていて、刺すような痛みがある
- 夜になると痛みが出る
- 顔色が良くない
- 目の下にクマがある
- 四肢が冷える
- 唇の色が暗い
肝陰不足
肝気鬱結によって気の巡りが悪くなり、瘀血が生じ、この状態が長期化すると、陰血が消耗され肝血虚という状態になってきます。肝は血液を貯蔵する働きもあり、肝の働きが弱くなれば貯蔵する血の量が少なくなり、肝血虚となります。こうなってくると病気は長期化することが多くなります。刺すような痛みは少なくなり、シクシクとした痛みが長期化します。
肝陰不足の特徴的な症状
- 気持ちが落ち着かない
- イライラする
- 眩暈
- 眼精疲労
- 眠りが浅い
- 寝付けない
- 口が渇く
- 冷たいものが美味しい
肝胆湿熱
肝胆湿熱は肝とその表裏の関係にある胆が湿と熱に侵されている状態です。
このころになると黄疸など、いわゆる肝炎の特徴が目立ちます。
湿熱は体に過度なカロリーや香辛料、水分が入ってきたものが代謝しきれずに残ったものが病因となる事が多く、暴飲暴食やアルコールなどを好む人に多く見られます。
体に熱がある事から一見すると元気で豪快な印象もありますが、常に興奮状態になるため、短気で冷静な判断が出来ず、怒りっぽい性格になる事もあります。
肝胆湿熱に特徴的な症状
- 口臭がある
- 口内が苦く感じる
- 舌に黄色っぽい苔が生えている
- 目つきが鋭い
- 充血しやすい
- 胃がムカムカする
- 食欲不振
【漢方薬とお勧めの食材】
肝気鬱結
肝気鬱結は肝の働きを改善し、気の巡りを良くする漢方薬を服用します。
代表的な漢方薬に逍遥散と加味逍遙散があります。
逍遥散は肝の働きを改善し気の巡りを良くしつつ、肝血も補う素晴らしい処方です。
加味逍遙散は逍遥散に牡丹皮や山梔子が加わっているため、清熱作用が強いため、体質的に熱っぽさを感じる場合にお勧めです。
四逆散なども肝の働きを良くし気の巡りを改善しますが、脾の働きを良くする生薬がないため、お腹の張りなどがある場合はやはり逍遥散などを選ぶと思います。
肝気鬱結にお勧めの食材
- キャベツ
- ニラ
- ネギ
- レモン
- ミカン
- 梅
- 酢
- 玉葱
- ナス
- 鯵
- 鰯
- 秋刀魚
- ひじき
- サクランボ
- 桃
- 紅花
- 陳皮
- 菊花
瘀血
瘀血を改善するには活血化瘀薬と言われる漢方薬をお勧めします。
代表的な漢方薬に冠元顆粒、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、当帰芍薬散などが挙げられます。
活血作用に強弱の差があるため、実際に服用する際は自分の瘀血の度合いにより漢方薬を選ぶ必要があります。例えば当帰芍薬散は他と比べると作用が穏やかな印象があります。
桂枝茯苓丸は主に下腹部の瘀血の改善に用います。桃核承気湯は大黄が入っているため、便が緩くなりやすく、胃腸が弱い人には使いにくいです。
瘀血にお勧めの食材
- ニラ
- ネギ
- 玉葱
- ナス
- 鯵
- 鰯
- 秋刀魚
- ひじき
- サクランボ
- 桃
- 紅花
肝陰不足
肝陰不足を改善するには肝の陰(水や血)を補い、肝の働きを良くする漢方薬がお勧めです。
代表的な漢方薬に杞菊地黄丸や六味地黄丸に加味逍遙散を併用するのが良いでしょう。
杞菊地黄丸は枸杞子が肝血を養い、菊花が肝の熱をとるため、肝陰の不足からくる熱症状(イライラなどの精神的症状)にもお勧めです。加味逍遙散を併用することで、さらに効率的に肝血を補い、肝の働きも柔和にし、清熱もすることが出来るので良いでしょう。
肝陰不足にお勧めの食材
- 牡蠣
- シジミ
- アサリ
- 海藻
- のり
- キウイフルーツ
- アワビ
- クラゲ
- イカ
- 貝柱
- ゴマ
- 黒豆
- キャベツ
- ブロッコリー
- ゴボウ
- サツマイモ
- ブドウ
- 栗
- エビ
- ひじき
- トウモロコシ
- ゴーヤー
- キュウリ
- 大根
- トマト
- ミカン
- レモン
- カボス
- 柚子
- セロリ
肝胆湿熱
肝胆湿熱を改善するには肝に溜まった過剰な熱を排出し、体全体の余分な湿を追い出す漢方薬がお勧めです。
代表的な漢方薬に竜胆瀉肝湯や茵陳蒿湯があります。
竜胆瀉肝湯は肝胆湿熱にぴったりで、清熱と利湿が強いいわゆるデトックス漢方です。
長期的な服用はあまりしない漢方薬でもあるので、注意が必要です。
茵鎮蒿湯は黄疸に用いられるケースが多い漢方薬です。
山梔子と大黄が入っているので胃腸が弱い人には使えません。
肝胆湿熱にお勧めの食材
- 大豆
- 緑豆
- 緑茶
- ヨクイニン
- 小豆
- 山査子
- 豆腐
- キュウリ
肝炎による体調不良は軽いものから重いものまであります。
肝気鬱結など軽いものは運動など生活習慣を改善するだけで解消しますが、肝胆湿熱になると生活習慣の改善のみでは難しく、また、コミュニケーションの問題なども目立つようになります(イライラ、短気、怒鳴る、攻撃的など)。
肝炎の治療は数値だけでなく、日常生活の様子からも判断して、少しでも毎日が快適に過ごせるように漢方薬を使いましょう。