味覚の異常と漢方
起床時など、食事をした後ではないにもかかわらず何となく口の中に「味」を感じた経験はありませんか?
漢方や中医学では古来よりそのような味覚の異常に対して様々な考察がされてきました。
今回は口の異常味覚を「苦み」「甘み」にわけて考えていきます。
口の中で苦みを感じる原因
口の中が苦く感じる身近な要因として「肝胆鬱熱」があります。
これは現代風に言い換えれば「ストレスなどの影響で自律神経が乱れてしまい、精神的にイライラや鬱々などを感じると口が苦くなる」と考えてもよろしいかと思います。
いわば怒りの感情から口が苦く感じる事がある、ということになります。
肝胆鬱熱に特徴的な症状
- 怒りっぽい
- 頭痛がする
- 目が充血する
- 尿が黄色い
- 舌に厚い苔があり、黄色っぽさもある
口の中で甘みを感じる原因
口の中が甘く感じる要因として『脾胃湿熱』が原因になっていることがあります。
脾胃の湿熱は飲食の不摂生(油・甘・辛いものの過食)が原因で起こります。
カロリーが熱量と表記されることからも過剰なカロリーは熱に変換され、体内に滞るのです。
そのため、脾胃湿熱は過食傾向の人や胃腸が弱い人にとても多く見られます。
脾胃湿熱の特徴的な症状
- 口内炎が出来る
- 喉が渇きやすい
- 食欲不振と暴食の両方がある
- 疲労感
- めまい
- 立ち眩み
- 軟便気味
漢方薬とお勧めの食養生
口の中で苦みを感じる場合
口の中の苦味の原因となる肝胆鬱熱を改善するには体の中に溜まっている熱を排出させる漢方薬をお勧めします。
代表的な漢方薬に竜胆瀉肝湯があります。
竜胆瀉肝湯は体の中の熱や湿を追い出す処方で、肝胆鬱熱にとても有効です。
竜胆草・黄芩・山梔子が熱を取り払い、車前子・沢瀉・木通が過剰な湿を追い出します。
便秘が強く熱の排出の妨げになっているようであれば、便通を改善する漢方薬の併用も考えます。
肝胆鬱熱にお勧めの食養生
- 辛い物や油っこい物、酒、たばこ、高カロリーな食事は体に熱を生んでしまうため、避ける
- 夏野菜(きゅうり・トマト・なす・ゴーヤーなど)や緑茶や菊花茶、ジャスミン茶など、体の余分な熱を排出する食材を食べる
- 運動習慣や気心知れた人との楽しい会話なども意識して、ストレスの発散に努める
口の中で甘みを感じる場合
口の中に甘味を感じる原因となる脾胃湿熱を改善するには脾胃に溜まった熱を外に出す漢方薬をお勧めします。
代表的なものに三黄瀉心湯があります。
三黄瀉心湯は黄連、黄芩、大黄の三種類からなるとてもシンプルな処方です。
黄連がお腹周りの熱を取り、黄芩が体上部の熱を取ります。大黄が入っているため便通が良くなり体の中の熱を外に排出しやすくなります。しかし、軟便気味の人や胃腸が弱い人は使用を控えるか少量から始めるようにしましょう。
また口の中で甘みを感じるのは、食事の不摂生だけが原因とは限りません。
胃腸の機能が低下していることで、口から入れた食べ物がうまく消化吸収されず、お腹に留まる事で起こることがあります。これは体質的に胃腸の弱い人や年配の人に多く見られる傾向があります。このタイプの人は食欲がなく、疲労を感じやすく、便秘や下痢などがみられます。
お勧めの漢方薬は六君子湯を基本処方とする胃腸機能改善の漢方薬がお勧めです。
胃腸の働きを改善する漢方薬をたくさんあるので、自分の体質や生活習慣などに応じた処方を選ぶと良いでしょう。
脾胃湿熱にお勧めの食養生
- 食べすぎをしない
- 甘いもの、塩分の強いもの、油っこいものを食べない
例)ポテトチップスや唐揚げ、ジャンクフード、菓子類など
食事をしたわけでもないのに口の中に味を感じる場合はストレスや食事内容の乱れ、胃腸機能の弱りが影響していることが分かります。
病気という認識の少ない症状だけに軽視されがちですが、自分の生活を見直すうえではとても重要な体調不良です。
ぜひ、空腹時の味を感じる方は他に異常がないかをご相談ください。